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長野家庭裁判所伊那支部 昭和38年(家)213号 審判

申立人 林盛一(仮名)

被相続人 林太郎(仮名)

主文

被相続人所有の別紙目録記載墓地の共有持分一二分の一を申立人林盛一に与える。

理由

本件申立の要旨は、

一  被相続人林太郎は申立人の従祖伯父(申立人の祖父林五郎の兄林金作の長男)で、かつ申立人の総本家に当たる関係にありますが、被相続人太郎は朝鮮へ渡り、同国内を転々としているうち、明治三三年五月一七日同地において死亡したのであります。

二  申立人と被相続人とは上記の続柄であるため被相続人が明治三二年ころ朝鮮へ渡るとき、申立人の父林次郎に本件墓地の管理や、同家に属する先祖の祭祀等を依頼して行つたので、申立人家では父次郎の時からそれらを継承して現在に至つております。さらに、申立人の祖父林五郎、父林次郎等の申立人家の故人も本件墓地に埋葬され同一家系の墓地として使用しているのであります。

三  ところが、被相続人には相続人がないので、申立人は昭和三六年八月二三日御庁に対し相続財産管理人選任の申立をなし、同年一〇月二一日相続財産管理人に長野県伊那市弁護士根本祐次が選任されその旨公告された。(相続財産管理人根本祐次死亡により昭和三八年二月六日長野県伊那市弁護士小松伝一郎が相続財産管理人に選任された。)そこで、管理人は民法第九五七条により、相続債権者および受遺者に対し、昭和三七年五月二〇日までに請求の申出をすべき旨公告したが、その期間内に相続人のあることが判明しなかつたので、御庁はさらに民法第九五八条により、相続権を主張するものは昭和三八年三月一五日までに申出をされたい旨公告した。しかるに、その期間内に相続人である権利を主張する者がなく、相続人並びに管理人に知れなかつた相続債権者および受遺者はその権利を失つた。

四  申立人は、被相続人と上記のような関係にあり民法第九五八条の三にいう特別縁故者に該当するので上記墓地の分与を求めるため本件申立に及んだというにある。

当裁判所の判断

当庁昭和三六年(家)第四一〇号事件記録および本件記録編綴の除籍謄本、戸籍謄本、登記簿謄本及び林盛一、大野茂男の審問の結果を総合すると次のような事実が認められる。

すなわち、申立人林盛一と被相続人林太郎とは申立の要旨一記載の続柄にあり、被相続人は明治三三年五月一七日朝鮮において死亡したが、同人には相続人がなく、被相続人家は申立人家の本家の関係に当るが、同人が朝鮮へ渡るころはすでに没落し、家屋敷もなく、ただ主文掲記の墓地を有するに過ぎなかつた。(本件墓地は一二名の共有地になつておるが現状は各共有者が区分して使用しており、将来分割登記をする予定である。)そこで被相続人は朝鮮へ渡るころ(年月日不詳)上記墓地の管理や、同家に属する先祖の祭祀等を申立人の父次郎に依頼して行なつたので、申立人家では父の代から現在まで引続き管理をし、被相続人の位牌も申立人方で保管し、申立人において被相続人家の祭祀を行なつておる。

さらに申立人の祖父林五郎および父次郎も本件墓地に埋葬され、同一家系の墓地として使用しておる現況にある。

そして、当裁判所は申立によつて相続財産管理人を選任し、申立の要旨三記載のような手続を経たが相続人である権利を主張するものがなく、所定期間の経過によつて、相続人並びに管理人に知れなかつた相続債権者及び受遺者はその権利を失つた。

以上認定した事実によれば申立人は民法第九五八条の三にいう特別の縁故があるものと認められ、かつ、同人に於て本件墓地を所有し、祖先の祭祀を行なうことが被相続人の意思にも合致するものと認められるから、本件申立を認容し、主文のとおり審判する。

(家事審判官 清水又美)

別紙

目録

上伊那郡箕輪町大字中箕輪

字坂井垣外

○○○○番イ

墓地六畝歩

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